interview with Sono Nitta
4/26から始まる展覧会
Sono Nitta exhibition -houga-
テキスタイルアーティストの新田そのさんのアトリエを訪問し、お話を伺いました。
そのさんの、これまでの道のり、今の視点、そして見つめる先にあるものとは?
座親(以下、Z):そのさん、こんにちは。
いよいよですね〜 笑。展覧会が近づいてきました。
スタッフもみんなで展覧会が始まることをとても楽しみに待ちわびています。
本日はそのさんについて、いろいろとお話を伺いたいと思いますのでよろしくお願い致します。
まず、テキスタイルに興味を持ったのはいつ頃からですか?
新田その(以下、S):染色を学んだ母の影響もあり、テキスタイルは幼少期から身近なものでした。
家に飾られていた綺麗な色柄の布や、母が持っていたハンカチやスカーフは今も記憶にあります。
洋服の生地を一緒に触りながら、この素材は何だろう気持ちが良いな、この柄は素敵だなと幼心に感じることが多く、手芸屋さんで生地や綺麗な色の糸を見るとワクワクしていました。
おもちゃのミシンを買ってもらって、夢中に何かを作っていたのを覚えています。そんな記憶が、テキスタイルへの興味の始まりだったように思います。
Z:テキスタイルデザインは、幼少期から身近にあったものだったのですね。それが作家活動に繋がっていったのは、なにかきっかけがあったのでしょうか?
S:美大に通っていた頃は何となく、周囲に習って就職の道を歩むのが最善の道なのだろうなと思っていました。
何事も経験、と一度は就職しましたが、どうしても自分のやりたい事は違うような気がして鬱々としていた時に、大学でお世話になった教授に声をかけて頂き、母校の女子美術大学工芸学科で助手を務めることになりました。
S:助手として学生と触れ合ううちに、やっぱり私は自分の手で作る事に喜びを感じるんだと再確認し、仕事が終わり学生が帰った後、他コースの助手さん達と共に、夜な夜な制作に励む事になります。
その4年の間に作家仲間が沢山出来、住む場所や生活環境が変化しても、互いに支え合い制作を続けてこられたと思っています。
大学勤務の4年間がなければ、作家にはなれなかったかもしれません。感謝です。
Z:ひとつひとつのステップが、今のそのさんを育んできた大切なものだったのですね。
お話を伺っていて、なんだか気になるそのさんの幼少期。笑
子供の頃からものづくりがお好きということですが、どんな子供時代でしたか?
S:自然が好きな両親の影響もあって、休みの日は山で山菜を採ったり、川で魚釣りをしたりする事が多かったのですが、木の枝で秘密基地を作ったり、石を河原に積み上げてみたり、おもちゃで遊んだ記憶よりもその辺に落ちてるもので遊んだ記憶の方が鮮明です。
家ではとにかく”紙”が好きで、包装紙や広告の裏に絵を描いたり、折り紙をしたり、これを作る!と決めたら、昼夜問わずやり続けてしまうような子供でした。
母曰く、子供の割に思い描く完成度が高すぎて、自分の足りない技術にイライラしてよく癇癪を起こしていたそうです。
Z:なるほど。子供の割に思い描く完成度が高い、と。頭のなかで予想図が描けているって素晴らしいことですね。
そのさんは美大卒業後にスウェーデンに留学されていますが、その時の暮らしで特に思い出深いことはありますか?
S:スウェーデンでは、本当に沢山の方に助けてもらいました。
中でも、今も親交のあるテキスタイルデザイナーのUlla-Karin Hellstenさん一家と出会えた事が、私の財産になっています。
彼女は、ご主人でありテキスタイル技師のBörjeさんと共に、自然豊かな田舎町で小さな紡績会社を経営しています。
彼らは、とても古い紡績機と織機を大切にし、素晴らしいクオリティーのウールのブランケットや毛糸を生み出し、世界を股にかけて仕事をしていました。
夏は近くの湖で泳ぎ、コーヒー片手に白夜を眺め、秋になると鹿よりも早く起きて裏庭でキノコを採り、そして仕事もバリバリこなす。
良い仕事は都会じゃないと出来ないと思い込んでいた当時の私には衝撃でした。
S:そんな豊かな人生の過ごし方を20代の頃に知る事ができたのはとても幸運だったと思います。
あれから20年以上経ちましたが、ようやく日本もそのような生き方ができるようになって来たと感じています。
これからの日本に生きるのがとても楽しみです。
Z:とても励まされるお言葉!
そう、わたしも、これからの日本はきっと 文化の熟成に向かっていると信じています。
最後に、今回の個展のテーマや想いをお聞かせください。
S:実は春の個展は初めてで、何を作ろうか考えていたところ、昨年水耕栽培していたムスカリやヒヤシンスの球根から、ひょっこり芽が出ている事に気付きました。
小さな小さな体の中に芽吹くためのエネルギーを沢山蓄えて、その時が来たら物凄いスピードで芽吹き花開かせる球根。
そして、その成長を支える根っこもとても魅力的。
しっかり根を張ることで初めて、花芽は上へ伸びてゆく事ができます。
ここ数年、
”本当の自分とは何だろう?
私は内に秘めて来たものを全て出し切れているかな?
大切に出来ているかな?”
そんな想いと向き合って過ごして来た自分自身と、球根の成長が重なって見えた気がしました。
しっかりこの地に根を張って、本当の自分に正直に花開かせていきたい。
そう感じてからは作る事が楽しくて、次々に芽を出す庭の球根植物の開花を追いかけるように制作していきました。
S:今回の副題になっている”houga”は「萌芽」を指しています。
芽吹き、これから何かが始まる兆し、を意味する言葉。
自分自身にとっても、観てくださる方にとっても、明るい何かの兆しを感じられるような展示になれば良いなと思っています。
Z:はい、きっとそのような展覧会になると思っています。
あともう一つ、最後に 笑。
これからの創作活動について、何か描いていることはありますか?
S:今回、座親さんの引き合わせで、HORTENCEの伊部さんに香りを作っていただく事になりました。
夢のようでした。
以前から精油が好きで、いつか香りと作品を併せて発表してみたいと思っていたら、とうとう叶ってしまいました。
精油も植物のエネルギーの一部。
今度は、その精油の元になった植物のオブジェを作ってみたいです。この精油はこんな植物からできてるのね、なんてオブジェを見つつ、香りを楽しんで頂けるのも楽しそうだなと思います。
これからも、閃きを素直に受け取り、いろんな好きを形にしている方々とワイワイ楽しみながら物作りができたら最高です。
Z:他に無いような、五感に響く香りが出来上がりましたよね。
そのさんと知代さんの、凄いコラボレーションを隣で見せていただきました。人と人、感覚と感覚が化学反応を起こす時って、一瞬なんだなと改めて感じさせていただきました。
本日はありがとうございました。
初日は、伊部さんと一緒にご在廊よろしくお願い致します。
太陽みたいな、新田そのさん。
ぜひ会場で素敵なお人柄にも触れてみてください。
Sono Nitta
exhibition
-houga-
会期:4月26日(金)〜5月12日(日)
時間:11:00-17:00
会場:ALBICOCCA gallery
HORTENCE for houga
アロマブレンドオイル
5ml ¥6,800- + tax
新田 その / テキスタイル・アーティスト
1976年福岡に生まれる。
女子美術大学工芸科・染色コース卒業。
テキスタイルアート・デザインを学ぶためスウェーデンに渡り、テキスタイル産業の街BoråsにあるThe Swedish School of Textiles, Textile and Fashion Designを修了。
帰国後、アパレルメーカー勤務を経て、母校女子美術大学工芸学科の助手として勤務。
同時期に作家活動を開始し、退職後は故郷である太宰府に拠点を移し現在に至る。
植物のありのままの姿に魅了され、そのエネルギーを作品に移し伝えたいという思いで、日々制作に励んでいる。